黒部下の廊下 (後編)

2007.10.21

2日目。
相当早くから他の客達は起き出していた為、ガサゴソという音で目が覚める。
しかし、朝は寒くてなかなか布団から出られないのだ。

なにぶん人数が多かったので、布団は3人で2人分を分けて使っていた。
そうじゃなくても部屋の中は寒くて、眠る時は鼻の頭なんかが冷たくて仕方なかった。
しかも外はかなりの悪天候で、雨風が音を立てていたのだった。

他の登山客のほとんどが黒4ダムから欅平へ向かうコースなので、朝10時のトロッコ列車に間に合うように、小屋を相当早く出て行くのであった。
僕らはその逆コースであったので、少し朝寝坊は出来たけど、それでも4時半くらいには出発したいところだ。
山小屋のオヤジさんは早起きで、なんだか最初は怖そうだったけれどなかなか良いヒトだった。
昨夜食堂でカップめんをすすってると、ご飯いるか?と言ってくれたし、朝は朝で頑張れよと言ってくれたし、こういうのは何だか嬉しい限りだ。

寒くてまだ真っ暗な中、ヘッドライトを点け山小屋を後にする。
昨日の風のせいだろうか、嬉しいことに頭上には星空が広がっていた。
あの団体客はやはり山小屋に泊っていたらしく、彼らは朝4時前には出発したとの事だった。

なかなか狭い谷の道では、追い越すのが大変なので、マズはその団体さんに追いつきたいところだ。


暗い山道をライトの光を頼りに歩いていると、前から3人のパーティーがやってきた。
話を聞くと、夜中に9時間掛けてここまで来たとの事だったが、一瞬驚いてしまったが本当なのだろうか?
もし本当だったら凄いなあ。

少し下りになったところで、光が列になっていた。
それはちょっと幻想的だったが、その光の列が団体さんであった。
あれ?まだこんな所にいたのかと思ったが、とりあえず平らな道で先に行かせてもらった。

すると、闇の中になにやらアヤシイ建造物が立ちはだかった。

こんな山奥に、なんとも近代的かつ巨大な建造物は、まるで学校の校舎を思わせた。
一部の窓から明かりが漏れており、それは給食室とかそんな感じの部屋で中で人が動いていた。
どうも、これはダムで働く人の宿舎であるらい。
先程の山小屋とは雲泥の差と言っては失礼だが、場所が場所だけに立派な建物だと感じてしまう。
しかもこの登山道が、この建物の中を通らなくてはならないのだから面白い。
最初は暗くて分からなかったが、しっかりと看板に「登山者はこの柵の中へ」と書いてある。

中に入るとトンネルのようになっている。
火力発電か何か分からないが、立ち入り禁止の奥の方から湿った熱気が漂っている。

まったく登山道ではないけれど、これはこれで雰囲気が出て、なんだか胸がワクワクする。
横の通路から人造人間とか出てきそうな雰囲気だが、当たり前だけどそんなのは出てこない。

看板には、電車に注意と書いてあるのだが、コンクリートの床にはレールも敷いてあった。
発電所で使う何かを運搬する為の物だろう。
途中に事務所みたいな所もあり、普通に発電所の方が働いていらっしゃる。
電気は大切にしないといけないのである。

トンネルから出ると、外は薄っすらと明るくなっていた。
外から見る発電所は立派で、数箇所では沢山の蒸気が出ていた。


仙人ダム

ここで、軽く朝飯を食う。
空も次第に明るくなり、なんだか今日は天気が良さそうだった。

発電所を後にすると、その先には至る所になにやら建造物が沢山ある。
その建造物も発電の為のものだろうが、どれもかなり昔に作られた様で、廃墟化されている物もあった。
自然の中にこういった人工物があると、よくこんな所に作ったもんだと興味を惹かされる。


とても長いつり橋の向こうに、変なものが見える

少し行くと、川に掛けられた長いつり橋が見えてきた。
またもや別の団体さんがつり橋を渡っていたが、なるほどコレは高いところにあるから少々怖い。
ここも上手い具合に団体さんを追い抜く。


鉄塔の電線がジリジリジリと音を立てている

二つのヘンテコリンなトンネルみたいなものは電線が繋がれていたから、変電気か何かだろうか?
よく見ると「関西電力」と書いていて、これもかなり前に作られたみたいだ。
しかし、こうして現役で働いているのだから大した物だ。


後ろを振り返る

さて、いよいよここからがやっと廊下になるのだ。
足下は崖っぷちで、かなり下のほうにザワザワと音を立て黒部川が流れていた。


黒部峡谷のこういった絶壁の岩を削った道を廊下と言い、下流の方を下の廊下、上流を上の廊下と呼ぶ。
その全体を、旧日電歩道と呼ぶ。ううむ、なかなか趣のあるネーミングだ。
その廊下、即ち旧日電歩道を毎年維持するのにも、結構な費用が掛かるみたいだ。
所々に発電の為の装置とかあるみたいで、斜面には電力会社関係の人達の脇道も幾つかあった。

それにしても凄い所を歩いている。
壁には少し太めの針金線があるから、それを掴んでいれば良いのだが、コレが無いとかなり危険だ。
もちろん上流の黒四ダムから来る人もいるので、上手い具合にすれ違わないといけない。
ここはお互い様で、譲り合いの気持ちが必要なのだ。

断崖絶壁の途中の窪みのある場所で、ビバークをしているツワモノもいた。
なかなか絶景なので、その豪快で秋による千変万化の美しさを写真に捉える方も多い。


S字峡

この辺りは立山連峰や鹿島槍ヶ岳などの3000メートル級の山に囲まれているから、日が昇らないうちは日陰になっている。
その山々の沢山の水がこの黒部川の流れを作っている。
至る所に湧き水もあり、飲もうと思えば飲むことが出来るかもしれないが、直に飲む天然水はかなり美味いのだろうな。

しかし、中には滝のようになっている箇所もあり、雨が降っている時は大変なのだろう。
そんな場所は、レインジャケットを着て通過していく。
誤ってもろに被ってしまうこともあるが、それもまた楽しいのである。
それとヘルメットを被っている人もいるが、落石にも気を付けなくてはならない。


十字峡付近

いくらか歩いていた断崖絶壁も、徐々に川面に近づきあまり高所感がなくなってきた。
またさらに歩くと、この道にも少し飽きてきた。
そしてやっと白龍峡に着いた。ここから黒四ダムまでは後半分くらいだろうか。

 


白龍峡

 


巨大で豪快な岩と、滝やコバルトブルーの川の音が、ここは秘境なのだと主張している。
一体全体どうすればこの様な容姿になるのだろうか、自然の偉大さを感じさせる場所だ。
目の前の大きな岩は、生き物を寄せ付けない迫力があるし、川の上流を見れば豪快な山が屹立している。

しかしよくこんな道を作った物だと、改めて感じる。
同じ北アルプスでも、山の頂と谷間では全く違った趣があるのだ。

それから、また長い道のりを歩く。
さすがに朝は大した物を食わなかったから、昼前には腹が減ってきた。
もう限界だというところで、漸く昼飯だ。
その辺りでお湯を沸かし、定番のカップ麺とアルファ米を食う。
いざランチタイムにした途端、あれほど人とすれ違っていたのに、人っ子一人通らなくなった。
何分距離が長い為に午前中のうちに距離を稼がなくてはならなく、黒4ダムから来る人ももう来ないのだろう。
あるいは後続の人たちもランチタイムなのかもしれない。

腹を満たし、後は黒四ダムをひたすら目指すだけだ。
それにしても2日目は天気に恵めれて良かった。
これが逆ルートの行程では、ちょっと渓谷の印象も変わっていただろう。

紅葉に関しては、もっと彩っているかなとし思ったけが、紅葉しているのは一部の植物だけであった。
静かで穏やかになった道を気持ちよく歩く。

やっと黒部ダムが見えてきた。
観光の為の放水はしていなく、いずれにしても夏の雨季の時期にダムの水が溜まるから、下からの豪快な放水は見れなかった。
なにやらこの放水の時は、サイレンで警告するらしいのだが、ちょっとそれも怖そうだった。

この辺りはもちろん自然も凄いが、それにも増して人間の力もまた偉大だ。
ダムにしてもトンネルにしても、莫大な費用と時間、それと犠牲者を含む沢山の人手で建設されたものだ。
そのお陰で、我々庶民は電気を使えるのだから、これは本当に有難い事だ。
このダムで一体どれだけの電気を供給できるのかは分からないが、普段生活しているだけではこういった源的な事は分からない。

最後は、黒部ダム脇っちょにある扉から黒部ダム施設に入りやっと到着。
周りの立山連峰などはすっかり雪化粧をしていて、これから山々は極寒の季節を迎えるのだろう。

(終わり)

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